“土人”の土産か『アートにとって価値とは何か』


パリでいうならルーブルやオルセー、

ニューヨークであればメトロポリタンやMoMA、グッゲンハイム

といった各都市にはこれだ!という代表的美術館がある。

対して日本には「これが日本の美術館だ!」と言えるようなものが無いような気もする。英国データ(The Art Nespapaer:2013.3.28)によると美術館の動員数世界1位は38万点以上のコレクションを所蔵するルーブル美術館がトップで、年間約1000万の入場者が訪れる。ルーブルの入場料は16ユーロなので日本円だと2015年1月では約1703円。トップ10のうちアジアは唯一、台北の故宮博物院がランクインしており、所蔵数は約70万点。他は英国・米国・バチカン・フランスの国でトップは占められている。

欧米の文脈に沿うアートの定義からすると、実は日本の美術館は常設展が弱い。その反面、東京を筆頭に企画展は充実しており印象派の作品から古代エジプト装飾まで世界中のコレクションを次々と堪能できる。

ただ観光で訪れる外国人に対し、古今東西・日本作家の代表的作品群を揃って見せれるイチオシ美術館がないのは寂しい。

本書はミヅマアートギャラリーのオーナーである三潴末雄氏がアートの価値をテーマにした初の著書である。日本の現代アートの価値をいかに国際化するかをモットーにギャラリーを開き、挑戦してきた経緯が纏められている。ミヅマアートギャラリーは会田誠、山口晃、鴻池朋子といった(近年は天野喜孝も加わった)毒と批評精神に溢れた作家を抱える。これまでのギャラリスト人生と日本の文化問題、さらに突破口を語っており、とにかく刺激的な内容だ。

もはや周知の通りかと思うが、日本をはじめ西洋美術史の文脈に沿わない非欧米圏の芸術表現は「アート」の評価軸には乗らないので別物としか見なされない。実は日本人のアートというのは西洋人にとって「土人の土産」同然の感覚であった。(表現は帯のまま引用)

著者がギャラリストへの道を目指すまでの遷移は実にユニークだ。それは20代の頃、マルクス主義を中心とした学生運動の中心として活動していたことにも起因する。父は音楽をはじめフランス文化全般に精通し、日本への紹介役を担っている人でもあった。著者が出会うアーティストは今でこそ名の知れた作家ばかりだが、当初名もない頃から彼等の作品を購入している姿を見ると先見の明がひときわ際立って見える。とにかく文体が熱いため読んでいる間、終始自分に語りかけているような気さえしてくる。

ところで見逃せない芸術の影響力例として2013年千葉のDIC川村記念美術館の「アンナの光」を売却した件がある。これは同館の目玉ともいうべきアメリカ抽象表現の看板バーネット・ニューマンの作品を売却した件であり、数字を羅列するつもりはないが例にあげてみると、当時の売却価格は103億円であった。譲渡に伴いDIC株式会社は特別利益を計上し、業績予想の上方修正をした。その額は64億円に上り、増減率は35.6%に達したという結果だ。大企業の当期純利益を30%以上も押し上げたのは、たった1枚の絵画である事実は驚きだ。

そういった海外の芸術作品が影響力を増す中、著者が生き抜いた四半世紀は、まさに日本人が日本の美術をどうやったら世界に認めさせることができるのかという歴史を巡る旅にもとれる。「東京はインターナショナルなミュジアムが無い国際都市」とウォールストリートジャーナルで著者が批判していたのも記憶に新しい。

その一方、日本の影響で現れたアートの功績についても見逃せない。著者の主張は以下だ。

明治以後、日本は一方的に西洋の影響を受けていた訳ではなく、19世紀後半のロンドンやパリ万博での出展を通じ浮世絵や琳派の表現がジャポニズムとして西洋美術のメインストリームに決定的な影響を与えていたのは事実だ。印象派やアール・ヌーヴォー表現は日本の美術表現がきっかけで生まれたともいえる。これは長い時間をかけユーラシアの極東でハイブリットされてきた日本美術が世界美術史に還流することで、初めて今あるかたちの現代アートの流れが生まれたと言っても過言ではないのではないか。日本人があまり認識せずにいるこの意義は、もっと強調してもしすぎることはないのではないか。
ちなみに日本の美術梱包と輸送技術は世界でも類を見ないほどの最高峰なので、ここも堂々と誇れる点である。

著者が語る「海外から受容した文化をシャッフルし、国内の土壌に合わせて独自に変容させ、日本的なものにつくり変えてしまう」という、日本人のクリエイティビティは本書に多数紹介されているので、アートに関係の無い人が夢中になって読める内容だ。

国内・海外への販路を展開するため具体的手法も掲載されている。グローバルな活動を目指す人に対して、著者の熱いエネルギーが伝わってくる一冊。

ミヅマアートギャラリー
http://mizuma-art.co.jp/

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⇒アートを購入してみようかという方へ
華やかなアート界の裏側を数字と数字以外の影響力を記述し、魅力を伝えてくれる。

 ⇒これからアーティストを目指す人へ

クラウドファウンディングを使用した資金の集め方や海外展の具体的方法が満載。
これ事前に読んでいたら、どれだけ労力を省略できただろう。。 


『ノンフィクションはこれを読め! 2014 - HONZが選んだ100冊』発売



今年もいよいよ発売されました!
『ノンフィクションはこれを読め! 2014 - HONZが選んだ100冊』

本読み集団HONZが自信を持ってオススメするブックガイドの第3弾!私もクリエイティブ関連のレビューも書いておりますが、今回は多くのカットを担当しました!!ぜひ購入してみてください。

メンバー全員が真剣にいい本を、愛して紹介している様子が伝わると思います!!


はじめに/成毛 眞


『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』


『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』/清水 潔氏インタビュー


『真実 新聞が警察に跪いた日』 − 栄光からの転落


『仁義なきキリスト教史』


『寄生虫なき病』 


『「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう 』税所篤快氏インタビュー


あとがき/土屋 敦


『名誉の殺人』


HONZとワタシ ビール


『人間と動物の病気を一緒にみる』 ラリるワラビー



 

クリティカルシンキング『芸術闘争論』

最近は、小学生からクリティカルシンキングを教える学校もあるらしい。

批判的思考能力とも訳されるが、これは複眼的にものを見て、それぞれのケースを批判的に読み込み、その上で自分の意見を作って、他人に伝えられる能力といった発展的な思考法だ。よく単純な計算練習とか書き取りとか、反復練習に対する反対概念として言われることが多い。あるものの受容よりも理解が大切なのだ。
 
本書は世界のアート界で活躍する筆者が芸術を志す新人アーティストに向けたメッセージだ。先日、美術の世界に全く携ったことのない人に、なぜ現代アートが生まれたのかの背景を説明した所、妙に関心された事があった。ここでいう現代アートとは、近年映画化されたジャン・ミッシェル・バスキヤや、アンディ・ウォーホールといったアーティスト達が活動した第二次世界大戦後の芸術活動を指す。何を話したかというと、歴史を紐解けば、経済と美術は密接に関わってきたということである。日本ではモネやゴッホの印象派が一番馴染み深いムーブメントであったが、アメリカの戦争の勝利と共に、アートの場もそれまで主軸であったパリからニューヨークに移動した。戦争により経済的に有利になったアメリカは、次の一手として文化を発展させようとした。ヨーロッパ諸国と比べて、歴史の浅いアメリカが権威を高めるためには、文化を発展させる必要があったのだ。
 
ちなみに、ざっくりとこのような背景は本書にほぼ掲載されている。私はこの本に出会うまで芸術について何も語れなかったし、自分の考えすらなかった。
 
芸術は尊いものとして認識している人が日本には大勢いる。さらに「芸術は神聖なもので、ルールなどないはず。自由こそ真のアートだ」という反コンセプト主義も日本では蔓延している。そのため、アートの世界で重要視されているコンテクストを理解していなければ、私達は作品をみても一体どんなことをいいたいのだろうと困惑するはずだ。
 
著者は、世界を視野にいれた芸術活動においては、グローバル・ルールを知らないで制作していても無駄であると述べている。それはコンテクストにより自分の作品を武装し、付加価値を身につけることだと諭している。これは事実であって、単純に作品の「技術的な上手さ」よりも「何を言いたいのかを作品に集約させる編集力」が大事になってくる。画家でさえ戦略がなければ、ゴッホのように才能はあっても生前では1枚しか売れない状態になるよという主張だ。
 
ちなみに著者がアメリカ人に対して実装したコンテクストは下記のとおり:
・私の作品はジャパニメーションである。けど、これはあなた達アメリカ人の影響ですよ
・なぜならアメリカは日本に勝利し、その後の条約の元で日本は平和ボケしました
・その結果、日本ではアニメカルチャーが発達しました
・でも元をたどれば、あなたたちアメリカ人のせいでもあるのですよ

 
作品における評価の基準は技術やコンセプトなどの大きく4つの項目にわけている。読んでみると論理は本当に簡単なのだが、この事実を出すため筆者はどれだけのトライ&エラーを試してきたのだろうか。文章からは何度も挑戦し続け、証明してきた結果と説得力がある。
 
本書に通底して書かれているのは、アートのグローバル・ルールだが、同時に本質的な日本美術の教育問題も浮かび上がる。残念ながら、私が美術大学の学生だった当時、教授は実際に生徒にアートを伝えられていなかった。この点に関しては村上氏は『エセ左翼的で現実離れしたファンタジックな芸術論を語りあうだけで死んでいける腐った楽園』と称している。日本の美術大学でも、村上氏が提唱するグローバル・ルールを是非積極的に教育に取り入れて、世界に通用する芸術家を多数輩出して欲しいと思う。
 
クリティカルシンキングはそのままに訳すと、批判的思考能力と何か理屈っぽくてネガティブな感じもするが、これは複眼的な意味が含まれている。ひとつのことをいくつかの角度から見てみることだ。ひとつのアングルから見てわかったような気になるのは危うい。
 
グローバル・ルールを理解していないと、宗教画を見ても、作品の純粋価値はさておき「当時の画工が、パトロンからお布施によって集まったお金で依頼され描かれた絵」という裏の構図がわからないだろう。自分があちらの立場だったら、自分がこっちだったらどう見るか。それらを統合して見ないと、宗教画も「なんだか偉い天使さまがいるだよ。きっとこの教会はありがたいにちげえねえ」という農民的反応になりかねない。洗脳されてしまわないようにも、相手の立場になって考えるということだろう。
 
本書はアート界の話だが、こういった立場を理解し、試行錯誤の上、議論されることは本当の意味で芸術が発展することに繋がるのかもしれない。
 
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世界で戦えるアーティストになるために
d-laboインタビュー掲載
http://www.d-laboweb.jp/special/sp232/


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