『閃け!棋士に挑むコンピュータ』

人工知能VS人間
将棋指しは人生の時間の大半を棋盤に向かい頭脳の鍛錬に費やす。日本将棋連盟会長の米長邦夫はかつて3人の兄に対し「兄たちは頭が悪いから東大に入った。自分は将棋指しになった」と矜持の言葉を残している。また柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』ではプロ棋士である鈴木大介八段が監修しているせいか、将棋の世界に魅了され没頭している棋士そのままを疑似体験できる。

本書では将棋ファンにとって歴史的な対局となった「清水市代女流王将 VS あから2010」の舞台裏と、その対戦の臨場感を味わうことができる。情報処理学会が創立50周年記念事業として将棋連盟へ挑戦状を突きつけた。その結果、女流王将の将棋に対する想いと最強のコンピューターを目指す開発者のプライドに火をつける事になる。

意外かも知れないが将棋ソフトは弱いイメージであった。1985年、ファミリーコンピュータに初の将棋ゲーム『内藤九段 将棋秘伝』が登場したが、当時小学生の私でさえ正直あまり強くないと感じた。プログラムは無論AIではなく、思考パターンは同一判断である。勝ちパターンがわかればわずか9手で詰むことができた。

将棋におけるコンピュータの思考法だが、まず棋譜に対し全手を読んでいない。ゲームの展開数は10の226乗であり、10手の時点で1073京7418兆2400億という膨大なパターンとなる。これではさすがに最速コンピュータをクラスタ(併合配置)で集結処理しても、すべての手を読む計算はとうてい不可能だ。

ではこの状態からソフトをどう強化するのか。本書では見事に説明しており、余計な手を読まない効率良いプログラムを組むのだ。その際、金や銀の駒に位置情報や攻撃・守備ステイタスの評価関数を複数設定する。複数の意見は1位〜4位まで投票制で割り出され1番多い票が決行される。この判断の設定は人力をもって1つづつ調整され、コンピュータといえども情熱と気合いで強くなっていった。また開発が進むにつれソースコードはネット上で公開され、プログラム振り分けのアイデアと処理速度の技術が高められていった。

驚くのはプロ棋士の思考は、一瞬で約3手に絞りこむ。この直感とひらめきが、長年棋譜上で戦ってきた成果だ。清水市代は父から将棋を通じて礼儀作法を学んだ。実際に「あから」と対局した際、はじめの挨拶において相手は反応が無い。当たり前だが、そんな些細な事に清水は動揺してしまう。清水にとって将棋は対話であり、勝敗よりも一緒に棋譜を作り上げたいのだ。

この立場の違いも読み進めるにつれ、お互いが歩みよる形となる。後半、清水は「初めてコンピュータと心が通った」と伝えている。将棋を知らなくても充分にドラマを味わう事ができるので、対戦結果を知らなかった方もぜひ本書で体験してほしい。

『弓と禅 改版』

オイゲン・ヘリゲル
福村出版

禅問答

弓道場は心がすずやかになれる場所だ。花や茶の道と同じく幽玄の世界を垣間見る事ができ、その間は普段の仕事や日常生活を切り離すことができる。

著者は大正時代の終わりに大学教授として日本に滞在していたドイツ哲学者である。映画『ベスト・キッド』ではないが、師範の元で鍛錬を通じ禅を学ぶ記録となっている。ここで登場する弓矢の名人とは、剣聖ならぬ弓聖と称された阿波研造。彼の射法はテクニックではなく精神性を突き詰めた事で名高い。しかし理屈が先攻する著者と、体現で諭そうとする師では禅問答においてすぐに衝突してしまう。

師による教えは「空と一体になる」など言葉が漠然としており、かつ難解だ。私も段位を所持している。著者と同様に言わんとする事はぼんやり想像できるが、体現はなかなかできない。ただ弓の知識がなくとも、読み手に「諸行無常」や「無」などの興味があれば絶対に面白い内容なのでオススメである。

さらには以下の「的を狙うな」の話はとても興味深い。もちろん信じられない人もいるだろうが、私は奇跡を信じる人間だ。

矢が的に当たらない日々が続くヘリゲルに対し、ある日師は「あなたは的を狙いすぎている」と伝える。弓矢とは、一体になった境地の時に既に矢は放たれ結果的に命中しているものだと説く。

ヘリゲルは理解できない。「では、師は目隠ししていても当てるのですね」と食いかかる。しかしその言葉には動じず、悠然と言う「今晩、私の家を訪ねなさい」。答えは家の庭にある弓道場で証明された。漆黒の中、30m先の的近くに蚊取り線香を炊き、師はいつもどおり矢を放つ。すると直後に闇のむこうででタン!と命中音が聞こえた。

「ここまでは技術により出来る事。これからさらに上の世界をみせる」

再度、暗闇の中に矢を放つ。先程とは違いガキッと鈍い音を立てた。実は2本目の矢は1本目に刺さったの筈(はず:矢の後方部分)に命中していたのである。衝撃を受けたヘリゲルは以降、さらに修練を積むようになったという。

今のは本書で紹介している禅問答の一部である。他にもどんどん紹介したいが、現代に通じる普遍の教えが多数ある読み応え充分だ。だが悲しいかな、このような良書は国内では弓道関係者しか知られてない場合が多く、むしろ海外のほうが認知度が高い。(ドイツ人達と話をすると案外ヘリゲルの話題がでてくる)日本人が持つ禅/幽玄の世界に浸れる数少ない一冊なのだ。

「本のキュレーター勉強会」第2回

2月2日、第2回目「本のキュレーター勉強会」が行われました。栗下さんはインフエンザの為お休み。お身体ご慈愛下さい。

さて今回も赤坂インスパイアに朝7:00に集合し、たっぷり濃い2時間となりました。まず課題図書である『警察の誕生 (集英社新書)』の書評感想シェア。そして、各自選定した書評とオススメ本を紹介する流れとなります。そしてこの時間、どっぷり濃ゆいのなんの。

まず皆持ってる量が普通ではない。そして「この装丁が〜」「ノンブルが〜」「この出版社てそうだよね」等、なんか本の内容以前の段階で熱くなってます。東えりかさんなど「本が反ってる」とか一緒になって熱く語るあたり、本好きが集まるよき時間だなあと感じます。参加者の話題は多岐に渡り、オートポエーシス、フーシェ、文科省、物理学、江戸の地図(成毛さん)などネタがつきません。

そして持参するオススメ本が何冊も被る始末。なんで!?世の中こんなに本が販売されているのに!という事で前回からさらにパワーアップした時間で終了。途中、山下さんによるツィッターのおかげで、オンタイムで話題も反映されました。次回の課題図書は土屋さんが紹介してくれた『閃け!棋士に挑むコンピュータ』です。今後とも宜しくお願い致します。

※ちなみに当ブログでは1記事につき3冊までの本掲載なのです。ショーーック!


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オイゲン・ヘリゲル
弓の達人と、その弟子ドイツ人のやりとりから見いだす禅の話

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