【オススメ本】動物たちのしあわせの瞬間 BORN TO BE HAPPY

野生動物の世界は弱肉強食の世界でもあり、時には一口の食べ物も見つけられない場合もあり、身を寄せ合っても耐えれない寒い冬だってある。動物たちは大変厳しい環境を精一杯生き抜いているが、それでも緊張や恐怖から解き放たれて優しい表情を見せる瞬間がある。

本書は世界中の動物たちのしあわせな瞬間を集めた写真集だ。著者が求めたのは弱肉強食の世界に生きる動物ではなく、見ている人々の心をほっこりさせてしまう動物たちのしあわせな姿。


エゾモモンガ、北海道十勝

著者は写真家の福田幸広。動物たちのしあわせな瞬間を求めるとはいえ、もちろんたやすく立ち会えるはずもない。一瞬の表情を捉えるためには、膨大な時間を動物たちと同じ環境化で過ごさなければならない。 


オコジョ、カナダ、ブリティッシュコロンビア島

進出鬼没のオコジョを撮影するため著者は雪深い山中で根気強く待機。とつぜん現れたその顔は、「あれ?いたの?」といわんばかりにぺろっと舌を出していた。

動物たちは人間と同じように、親子で寄り添い、遊び、眠り、恋をする。明るい写真に添えられた文章も魅力的だ。ページをめくるたび心がほっとして、だんだんと心地良い幸福感に満たされていく。


エゾフクロウ、北海道三笠町



ミサキウマ、宮崎県都井岬

母ウマの食事中、子ウマはのんびりお昼寝タイム。まどろむ姿を見ていると、こちらまで眠くなってくる。 


アカウサギ、広島県大久野島

野生のうさぎが多数生息する『うさぎ島』。瀬戸内海に浮かぶ小さな島・大久野島は、野生のうさぎが多数生息するため『うさぎ島』と呼ばれる。ペットを飼う人たちが、自分のペットの一番かわいい姿を充分知っているように、著者にとってはうさぎの撮影はお手のものである。彼等は斜めの場所で眠っていたため、2匹がだんだんと右端のうさぎにもたれかかっている。若干寝苦しそうに見えるのもご愛嬌。


キングペンギン、英領フォークランド諸島ボランティアポイント

親ペンギンについていくヒナ。ヒナなのに親の倍はあろうかという胴回り。きっと親からたっぷりと食べ物をもらったのだろう。このヒナは約10ヶ月ほど。親は運動不足解消のため、こうしてエクササイズウォークに連れ出すらしい。そういえばお腹まわりが気になるのは、私も同じではないか。

著者のレンズを通して動物界をのぞいてみれば、地球はなんと彩り豊かな生き物に溢れているのだろうかと思う。もし生き物がデザインされているとしたら、創造主は間違いなく最高のクリエイターだろう。


クロザル、インドネシア、スラウェシ島

表情筋の構造から動物は笑わないという説もある。しかし、この写真は明らかに笑っているように見えるではないか。どうせ同じ顔なら、まわりも笑顔になってしまうほうがずっといい。

本書はナショナル・ジオグラフィック特有のハイクオリティな写真を、どのページからでも堪能できる。動物・自然好きにはたまらない。彼等の姿から、生命の素晴らしさを見つめなおすことができる至福の1冊。

【オススメアート本】魂の作家『手の国の鬼才たちMIZUMA』

2016年の日本経済は欧州金融機関の混乱、中国経済の減速、また日本銀行のマイナス金利政策により波乱含みの年になりそうだ。それでも欧米主体の現代アート業界は不思議なもので、クーンズやハーストなどアーティストであれば安定した優良株のように、供給するたびに買い手がつくほどの市場が形成されている。

牛の輪切りをホルマリン漬けにした作品で知られるダミアン・ハーストはニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで取扱う彼のドット絵ですら1点100万ドル以上で瞬く間に売れる。世界中のギャラリーが集結し販売されるアートバーゼルなどのフェアだと、コレクターはブランディングされたわかりやすい作品を欲しがる傾向にあるので、セイの法則でいう「供給はそれ自身の需要を想像する」が具現化されている。

そんな中、人気作家の制作方法はアンディ・ウォーホルのファクトリーやルネサンス期のミケランジェロよろしく工房形態をとるようになる。ポップアーティストのスター、ジェフ・クーンズなどはニューヨークに工房スタッフを100名以上雇い、制作は彼等に任せている。作家本人の仕事はコンセプトを考えることであり、最後にクオリティに達した作品についてサインする。工房形式は今やメジャーであり、村上隆もアートを産業として捉える中国の作家達も同様の形態をとる。

こうした背景の中、本書はミズマアートギャラリーのオーナー三潴末雄氏が、寡作と言われようとも手を動かし黙々と制作する所属作家30名についての魅力を語っている。

ミズマアートギャラリーに所属する作家は、気骨溢れる作家ばかりだ。森美術館で開催された「天才でごめんなさい」展で約50万人の来場客を動員した批判精神あるれる会田誠。日本屈指の現代美術コレクター高橋龍太郎は日本の現代アートは会田誠に尽きる、とまで言い切ったそうだ。本書には各作家が作品とともに見開きで紹介されているが、会田誠に関しては「危険すぎる最高の知性派」とキャッチコピーも秀逸だ。

あまりにも緻密なペン作業で1日に10センチ四方しか制作が進まない池田学の作品も驚愕だ。池田が描く樹は森のように深淵で濃密、本書でも確認できるが部分には小世界が表れ、さらに根元には幻視のアジア都市が広がっているなどそのスケールは計り知れない。現在は3x4メートルの作品を描きたいために、アメリカ・ウィスコミン州にあるチェゼン美術館のスタジオで制作している。チェゼンは制作のため週一回の制作公開を条件に、3年間の無償提供を申し出た。

その他にも、日本におけるミニマリズム至上主義と真向から立ち向かう、華美にして婆娑羅のスタイル天明屋尚、日本という土壌と技術を継承しながらも、バイクに侍がまたがるといったアイデンティティを捉え直す作品を生み出し続ける山口晃といった面々が連なり、ボリュームとしてはルーブル美術館のように数日かけて各作品と対峙することをオススメする。

作品のコンセプトが先行する現代アートにおいて、ミズマアートギャラリーの作家達から生まれる作品には、もはや言葉にできない圧倒的なエナジーを感じる。これからはそういったコンセプトを凌駕する圧倒的な存在感の時代がくるかもしれない。三潴氏はそういった作家ばかりを確かな嗅覚で汲み取り、集め、ギャラリーを運営している。ページをめくり各作家に共通するのは、一日中作品と向き合うような、あくまで腕一本で勝負する姿勢である。

もちろんこれらの姿勢は日本の伝統的職人スタイルと言ってしまえば珍しいものではないかもしれない。ただ、その膨大な手の熱量と作家の情熱は、確実に指先から表現媒体に伝導され、作品に反映される。それが心の琴線に触れるのではないか。かつて柳宗悦は「日本は手の国だ」と称したように、ひとたびそれらの作品に出会えば、作品自体の圧力の高さを肌で感じとれるだろう。

本書のサイズはB5版でオールカラー、また作品図版も130点を掲載している。魂を込めて制作を続ける作家達を知らない方にとっては特にオススメだ。


『築地市場: 絵でみる魚市場の一日』日本版スターウォーズか

サンマ、アジ、キンメダイ、伊勢エビ、ウニ。真夜中、港に水あげされた魚介類がトラック約8000台で運ばれてくる。

これまで約80年にわたって日本人の食を支えつづけた世界最大規模の魚市場、築地市場。その全貌を、本書は水彩のイラストとともに解説している。物品の搬入、競り、仲卸、マグロ卸などひとつひとつの流れが丁寧に説明されているので、自分たちの食卓に魚はこうして届くんだと自然と理解できる。

著者のモリナガ・ヨウ氏は『プラモ迷宮日記』、や『ワールドタンクミュージアム図鑑』などでも有名なイラストレーター。玩具メーカータカラトミーのプラモに付属する解説書の絵で知る人も多いのではないか。ティーガー1 後期型のフォルムや、搭乗する兵士の装備などは著者のおかげで知ることができた。筆者の文体は、のんびりしているようで詳しい。ご本人にあったわけではないが、描く線からは著者の素朴かつ実直な人格がにじみ出ている。


 
ⓒMORINAGA YOH

イラストの臨場感は抜群である。この見開きは、マグロのせりがはじまるところ。マグロの量にも驚くが、読んでいると卸業者と仲卸業者の熱気が伝わり、市場の活気と速度に圧倒されてしまう。

 
ⓒMORINAGA YOH
仲卸の店の様子。絵の利点は適度に整理された情報を、一瞬で読者に届けられる点だろう。そのため絵描きはすでに情報キュレーターの役割を担っているのかもしれない。新鮮さをそこなわないよう用意された膨大な量の発泡スチロールも、昼には片付くから驚きだ。保温技術が進んだことで、以前は港近くでしか食べられなかったサンマの刺身も、全国どこでも食べられるようになった。

 

ⓒMORINAGA YOH
 

中央の黄色い運搬車がターレット式構内運搬自動車。通称ターレは築地市場の顔ともいえる乗り物だ。私も早朝の築地に訪れたことがあるが、ターレは築地の活気を表しているような気がする。独特のフォルムで、信号もない通路を合図もなく素早く走り回っていた。この見開き解説図の構図は、著者にとってお手のもので、各運搬車のバッテリーなどもディテールが正確に再現されており、さながら社会見学のように安心して眺めることができる。

これらの解説の漢字にはルビがふられている。つまり子供と一緒に図鑑的に読めるのだ。私は息子と読んでいたが、ターレのことを「スターウォーズみたい」と言っていた。確かに丸いラインや洗練されたデザインは近未来的かもしれない。

また本書のカバーを外せば見開き4ページで築地市場の全貌が現れる仕掛けだ。いま築地は多くの外国人観光客で訪れるが、皆カメラを持って目を見開いて眺めている。それはそうだろう。

しかし、こんな魅力的な築地市場も2016年に豊洲への移転が計画されている。ぜひ本書を読んで、今のうち現地に足を運んでもらいたい。 


 


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