付加価値をクリエイトする『僕は君たちに武器を配りたい』

私事で恐縮だが、順調であれば来年の春に父親になる予定だ。最近は子供の名前を考えたり、将来どういった人間になってほしいか人並みに考えたりもしてしまう。それでも、最終的にはなるようにしかならないと思いつつ、キラリと何か1つでも輝けるもの持ってもらえたらと密かに期待したりもする。本書はそういった私の子育て哲学を後押ししてくれる一冊だ。

今、20〜30代の多くは自分たちが親の世代と違うことに薄々気が付いているはずである。一流大学に入り、厳しい就職活動を潜り抜け就職しても30代か早ければ20代からリストラの危機に脅かされる。会社は利益を捻出するためコスト削減を行い、働けど給料は上がらない。以前の「未来は明るく、豊かになる」幻想はもはや存在しない。

これから世の中とどう渡りあっていけばよいか、またどうやって若い世代を育てていこうか?など悩んでいる方達に是非本書をオススメしたい。日本が直面している問題点と、今後は価値を生みどう生きればよいかを、クリアに体系立て解決策を提示している。

京大で人気教官という著者の瀧本氏は、21世紀の日本を考える上で、日本人はますますグローバル化する資本主義の潮流からは逃れられないと言う。最近盛り上がっているTPP議論含め、グローバル化が良い悪いという議論が未だにあるが、グローバル化とは時代の潮流であり選択できるものではないと伝えている。

冒頭で伝えているが、資本主義の本質は「より良いものを、より多く欲しい」にある。また「同じものなら、安いもののほうがいい」でもある。国と民族が違えど、これは普遍の価値観だ。人間は品質が同じであれば安いものが欲しくなる。結果として、価格はどんどん下がり品質はそれに伴い向上していく。Webなどの通信手段が未発達の時代、ライバルは日本国内にあったが、いま日本のIT企業のライバルはインドであり、自動車のライバルは韓国や中国だ。

そして資本主義の弊害として格差社会を挙げている。いまは希望と異なり、正社員ではなく派遣社員として働かざるを得ない人達が増えている。アメリカでは格差社会の是正を求めて反ウォール街のデモが広がっている。しかし、著者はそれ自体の是正の意見は述べていない。「派遣問題」は本質からずれていると考えている。労働者の賃金が低下したのは、技術革新が進んだためと考えられている。自動車産業では工場に多数のロボットが導入され、労働者の仕事が単純作業となった。当たり前といえば当たり前の議論だが、その事は賃金下落の本当の原因だと語る。

では個人としての私達は、今後どのように生きたらよいのであろうか?著者は以下の解決策を提示した。
‐ι覆魃鵑に運んで売ることができる人(トレーダー)
⊆分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)
商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人(マーケター)
い泙辰燭新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)
ゼ分が企業家となり、みんなをマネージしてリーダーとして行動する人(リーダー)
ε蟷餡箸箸靴道埔譴忙臆辰靴討い訖諭淵ぅ鵐戰好拭次

その内、,離肇譟璽澄爾鉢△離┘スパートは、今後生き残っていくのは難しいと語る。,梁緝塾磴榔超肇泪鵝⊂社マン、旅行代理店等だが、ものを右から左に移す仕事はネットの普及により、ビジネスモデル自体が破綻してきている。△離┘スパートの代表例は、弁護士や会計士、ITスペシャリストだが、ロースクールやアカウンティングスクールの設置により、弁護士や会計士の数が大幅に増えたことから供給過多になった。

著者が今後生き残るタイプとして-Δ魑鵑欧討い襦6δ未靴童世┐襪里蓮◆峺朕佑領藁未膿靴靴げ礎佑鮴い涼罎膨鷆,靴討い襦弯傭だという事だ。誰でもできる仕事、また高度の知識であっても、他人と同じレベルでは、スピードの速い現代社会ですぐにコモディティ化してしまう。大切なのは、自分だけが唯一できる事であり、かつ世の中に提供できる人だけが生き残れると説いている。

ちなみに前回紹介した『日本のデザイン』は、のマーケター(商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人)へのメッセージに該当する。エルメスのバーキンにせよ、アップルのiPhoneにせよ類似品は沢山ある。しかし個性が埋没していないのは、商品に高級感や、最先端商品などのイメージを付けているからだ。前々回紹介した『スティーブ・ジョブズ I 』はい離ぅ離戞璽拭爾筬イ離蝓璽澄爾鯡椹悗洪佑了温佑砲覆覦貂だ。新しい価値を世の中に提供した型破りのリーダーの生き方が体験できる。

本来であれば、それぞれのタイプごとに本1冊を使っても書ききれない位の議論が必要であろう。しかし本書はこれからの世の中をサバイブする為に必要な知識を「武器」と例え、体系立てて解説している。本書ではグローバル資本主義の本質と、逃れられないその社会の中で生き残る為のイントロとして読んで頂けたらと思う。そして本書のデザインだが、文字の配置が各所でズレている。もちろん落丁では無いのだが、ズラし方も「もうちょっとこっちじゃない?」と妙に気になってしまう。これも個性の1つとして表現しているのかもしれない。

※HONZでは現在、時代を担う次期メンバーを学生から募集しております。あわせてこちらもご応募よろしくお願いします。

-----その他オススメ-----

そこまでやるか!―あなたの隣のスゴイヤツ列伝 (日経ビジネス人文庫)

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  • 作者: 日本経済新聞社、日経=、日本経済新聞=
  • 出版社: 日本経済新聞社 (2006/10)
  • 発売日: 2006/10
各分野のニッチなイノベーターやリーダーが取り上げられている一冊。万引き犯を捕まえるエキスパートや、町工場でガンダムを創った人など、創意工夫を凝らし新たな価値を提供している人達が多数紹介されている。


会社が嫌いになっても大丈夫(日経ビジネス人文庫)

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  • 作者: 楠木 新、undefined、楠木 新のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
  • 出版社: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2010/6/2
京都大学法学部を卒業後、大手企業にて順調にキャリアを積んできた著者が突然患った鬱病。組織の中での受動的な生き方から、能動的に生きる意味、働く意味をみつけるための10年間の記録が綴られている。

『日本のデザイン』

仕事から家に帰宅した際、部屋の隅々までキレイに掃除が行き届いていると、本当に心地が良くなる。床が磨かれていたり、ゴミが処分されていたり、シミが完全に落ちてないまでも除去しようとした努力の形跡があれば更に最高だ。こういった仕事ができる人間は、終わりと決めた時間になってもすぐ掃除用具を片付けず、キリがいい所までやり遂げるに違いない。今回紹介する本は、東えりかが11月のこれから読む本で記述していたが、山本尚毅が紹介していた本でもある。著者は、このありふれた日常空間を整える美意識は、外国人よりも日本人に如実に表れており、他に代え難い価値観だと言っている。

本書はどんな企業であれ、とにかく製品プランナーに購入して貰いたい。これからものづくり日本は、生き残れるかどうかの時代に突入する。そのために必要な資源である「美意識」がいかに重要かを、ニュアンスでなく正当なる理論でもって教えてくれる。

いうまでもなく現在、日本は転換期にある。戦後60数年日本は工業生産に邁進してきたが、アジア経済の活性化により工業国としての経済モデルは終焉を迎えた。少子化とエネルギー問題含め、急速に変化を求められている。この転換期に、日本は技術とセンスでアジア諸国をリードすることができるのだろうか?今後のものづくり製品文化を形成する上で、この本は必読本だと考える。

著者は日本デザインセンター代表取締役である原研哉。長くコミュニケーションの現場に対し「もの」ではなく「こと」で携わってきた人物、デザインプロセスにおいてイメージを創るプロである。たかだかイメージと思わないで欲しい。世の中、ほとんどブランディングでありイメージだ。エルメスやアップル、五つ星レストランだって、どちからというと物質そのものよりイメージで形成されている。商品のイメージが向上すれば価格は当然上がり利益が生まれる。反対にブランド価値が低い汎用品に対しては、消費者は他の企業が出す類似品を安く購入しようとする。つまりブランド価値がないと、商品はとことん買い叩かれる結果となる。本書では、日本のデザイン/商品ビジョンの第一人者がデザインの重要性と、日本の将来について語るのだから読まずにはいられない。

氏の言葉によって、日本人特有の感受性の高さに改めて気づく。美しく大切な感覚が本書では連発されるので、我が意を得たりの感覚が多発し「日本てサイコー!」と思ってしまう。そうそう、日本人は千数百年という時間の中で醸成された感性をもっと大事にしていくべきなのだ。

デザインには、よくシンプルという言葉が使われる。しかし、その概念が生まれたのはわずか約150年程前とされている。文明初期に登場する土器や石器も比較的単純な形だが、複雑な形が作れない状況での単純さはシンプルというよりもプリミティブ、すなわち原始的である。中国土器に代表される龍の文様や、イスラム文化圏での幾何学模様は、その後より複雑なデザインに発達し、そこからシンプルへと到達する。

もちろん全て単純化し省略すればよいものではない。例えば東山文化。和室の源流といわれ質素高貴で名高い京都慈照寺にある足利義政の書院は「空」や「無」といった、要するに「何もない」美学を携えている。形の合理性を追求した結果でなく、意図して「空っぽ」を創った。著者はこれを「エンプティネス」と称し、この必要性を説明している。つまり「無い」という新しい価値を加え、人の関心を引き込んでいるのだ。

日本の簡素を旨とする美意識は、世界でも珍しいそうだ。足利義政が最高のエンプティネスを体現した隠居生活は、室町末期の15世紀であり今から500年以上も前の事だ。バウハウスの誕生よりも300年以上も前の時代である。その東山文化を茶の湯でもって、さらに洗練させた千利休は16世紀後半に登場する。すでにこの時点で日本の感性は形成されている。大手企業はグローバル化を推進しているようだが、ものづくり精神面に関しては、日本基準でよいだろうとつくづく思う。日本のセンスと先端技術をもって、ハイブリッド商品を創るべきなのだ。それが可能であれば、今後もこの国には将来性と、日本人としての誇りが保たれるであろう。


------その他オススメ本------
『これからのアートマネジメント ソーシャル・シェアへの道』 一見ありふれた町並みに、アートで新しい価値を加える。そんな事ができないかと考えた時、本書は強力なガイドとなる。あらゆる“場”を再生できるアートの力について知れる本。
これからのアートマネジメント ソーシャル・シェアへの道 (Next Creator Book)

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  • 作者: 中川真、フィルムアート社編集部
  • 出版社: フィルムアート社
  • 発売日: 2011/4/9
『岡本太郎の見た日本』 世界に誇れる日本人の感性の語り方がわかる。芸術家というよりも民族学者としての岡本太郎視点で書かれている。実は「日本的」とか「日本文化」といった言葉に対しても岡本は懐疑的だった。
岡本太郎の見た日本

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  • 作者: 赤坂 憲雄、undefined、赤坂 憲雄のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
  • 出版社: 岩波書店
  • 発売日: 2007/6/26
『へうげもの』 「数寄者」で名高く、織部焼を世に広めた張本人である古田織部の物語。武がすべての戦国時代、茶の湯に価値を生み新たな美を見出した「数寄者」と呼ばれる人々が登場する。これまで戦国時代といえば武の側面ばかりに焦点があたっていたが、戦国時代を美の面から改めて見直す事で全く新しい感動が生まれた。講談社文庫から異例の漫画化。
へうげもの 一服 (講談社文庫)

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  • 作者: 山田 芳裕
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 2011/4/15

『スティーブ・ジョブズ I 』

2011年10月5日、アップル社の会長スティーブ・ジョブズが他界した。

ジョブズは自身の死を予測し、伝記作家ウォルターアイザックに生前から「内容に文句を言わないから伝記を作成してほしい」と依頼しており、本書はインタビュー嫌いな著者の唯一の公認本となった。10月24日に世界同時出版されたこの本には、ジョブズの強さ/弱さを含めた生の声が詰まっている。

私は大型ブックセンターを歩き回り、面白い本を探すのが好きだが地図から漢字ドリル、絵本まで目を通す。本屋で探しているお宝発見感覚が好きなのだ。しかしビジネス本コーナーにはあまり関心が無く、目は通すが、どれもいまいちピンとこないのだ。したがって「誰それの名語録」等々、これまでのジョブズ関連本もそこまで惹かれることはなかった。

本書に興味が持てたのは、裏帯にバラク・オバマ、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグなど、アメリカを代表するメンバーから追悼の意を表した言葉が掲載されていたのと、あるキーワードが目に入ったからだ。それは「禅」。

ジョブズの性格とその破天荒な生き方には多数の意見があると思うが、本書では自分らしく生きる事の大切さに気づくことができる。13歳の頃、ジョブズは教会に通っていた。ある日、ジョブズは子供が飢餓で苦しんでいる写真を牧師に見せ、この子をどうにかしたいと質問した。しかし牧師から納得のいく具体案は得られなかった。それまで神はなんでも答えを知っている、とキリストの教えを牧師から聞いていたので、そんな神さまなど信じる気になれないと教会に通わなくなってしまった。以降、彼は宗教論などに惑わされず、あくまでも自分で解決していく行動をとるようになる。

それからジョブズは心を研ぎ澄ませることによって体得する最高の知恵を求め続けた。その方法に精神的鍛錬となる禅を選んだ。本人はその後、永平寺(福井県)に移り、本気で出家しようとまで考えていたが、禅の師匠・知野弘文によって止められたそうだ。ちなみに禅では「師を求めて世界を旅する意思があるなら、すぐ隣にみつかるだろう」という教えがある。以前紹介した禅問答の良書『弓と禅』はジョブズの愛読書でもあった。

ジョブズは幼い頃、養子に出された。そのため「お前の親はスティーブを捨てた」などまわりの友達から虐められたトラウマがあった。そこから自分は特別な存在と強く意識するようになり、また同時に「環境を自ら変えていく」力がついたという。

本書の中で紹介されるジョブズは本当にユニークであり、また社会の既存の価値観ではなく常に自己とむきあって生きている様子が描かれている。わがままで人間臭い。本人は果実食派と称し、かなり大人になるまで風呂に入らなくても「自分からは体臭が出ない」と思い込んでいたらしい。もちろん臭いはキツかった。かけひきも上手で、相手の目をじっと見つめ、怒る/泣くあらゆる方法で相手を説得する。その上、人に対し高圧的な態度をとる。だがその反面、ピクサー創業やiPhone開発など、革命的な偉業の数々をとげていく。

本書を読み進めると「空気を読む」、とか「大多数の意見は重要」とかの価値観がくだらないものに思えてくる。自分の行動は自分で責任を追う。その点で、彼の生き方は本当に潔い。叩かれる場面は何度も出てくる。行動が突出すぎれば、他人からの批判がもちろんあるのだが、すべて自己責任で生きていた。ジョブズはもちろんそんなバッシングは気にしていなかったし、怖れてもいなかった。常に自分と対話している生き方を選んでいる。この内容はジョブズ本人から2年以上の歳月をかけ、50回以上のインタビューを重ねて完成したものだ。彼の壮絶な人生をリアリティをもって伝えており、ジョブズの生き様を疑似体験するにはうってつけの一冊なのだ。


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実は前々回から紹介したかったのは、この『鳥の仏教』だった。太極拳とか舞踏を紹介しているうちに新刊で無くなる可能性が。鳥達の声を通じてダルマの本質を知る事ができる。文庫化され500円という破格の値段なので、是非購入してほしい。

鳥の仏教 (新潮文庫)

鳥の仏教 (新潮文庫)

  • 作者: 中沢 新一、undefined、中沢 新一のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
  • 出版社: 新潮社
  • 発売日: 2011/6/26


ジョブズが東洋思想やヒンズー教、禅宗、悟りを求めていた時に読んでいた本。
あるヨギの自叙伝

あるヨギの自叙伝

  • 作者: パラマハンサ・ヨガナンダ、undefined、パラマハンサ・ヨガナンダのAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
  • 出版社: 森北出版 (1983/09)
  • 発売日: 1983/09


『スティーブ・ジョブズ II』は11/2に発売予定。
スティーブ・ジョブズ II

スティーブ・ジョブズ II

  • 作者: ウォルター・アイザックソン、井口 耕二、undefined、井口 耕二のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 2011/11/2


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