『ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商』

超一級の美術品を商う
前回、南アフリカで購入した根付の本を紹介した。美術品が海外に流れる経緯には勿論、意図的な要素が含まれる。あたりまえの事だが、購入する者がいればその裏にはプロデュースする人間がいる。これまでは海外に展開する美術商についてまったく意識していなかった。今回はロックフェラーといったアメリカの大富豪を相手に国宝級の美術品を商った美術商―山中商会についての本を紹介する。

山中商会は19世紀アメリカに進出し、日本美術品を大量に販売した大骨董商である。中心人物は山中定次郎で、本書はその活躍ぶりが知れる良書なのだが、何よりもまず正確な背景と資料をもって記述しているので、これだけでも購入価値のある一冊だ。

さて山中商会の美術品は本願寺の菩薩図や、鎌倉時代の作品と考えられる聖徳太子二歳像など激レア(失礼)美術品が多く登場する。また日本だけでなく中国美術にも手を広げているのでその数は圧倒的になる。関係ないが、本の背表紙にある北京での山中定次郎の写真はそんな名だたるコレクションに囲まれており本当に羨ましい。

20世紀初めに清朝が崩壊した結果、中国美術品も大量に放出された。その中でアジア美術のオークションをニューヨークやロンドンにて大規模に展開するが、山中商会は第二次世界大戦の影響で莫大な資産を失い、所蔵したコレクションは全て売り払われることとなった。

本書を読み進めると、歴史と芸術は深くつながっている事を改めて思い知らされる。また芸術の純粋な価値を考える絶好の機会となった。当時のアメリカ美術ブームでは富裕層階級が権力を象徴として芸術作品を他人に誇示する必要があったらしい。そのため衣食の足りた人々は当初、家具、絨毯、鏡などの室内装飾品を集めた。だが産業革命がきっかけで室内装飾品の大量生産が可能になると、芸術/美術品が代わりにその役割を果たす事になった。絵描きや陶芸家などの当人はそんなブームがくるのは夢にも思わなかっただろう。

また日本美術がアメリカで広まった理由として日本人の美術意識の高さがある。猿、魚、鶴、鶏、菊などこれまで考えてなかったものが美術品のモチーフになる。これは聖書や教会など宗教に関連したものが大半を占める西欧芸術文化にとって、日常の対象が美に昇華するインパクトがあったであろう。

ともあれ戦前の山中商会を取り上げたノンフィクションなのに、その精密な資料は数ページ進めただけで必携の説得力がある。商会自体の盛衰を描いておりこれも諸行無常の美を感じる。作品をトータルプロデュースしたと考えれば、山中商会はそれ自体ひとりの芸術家とみれるかもしれない。

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